映画『フラガール』の成功要因:“ヒットする”映画と“評価される”映画の両立

2006年9月23日に映画『フラガール』は公開された。近年のヒットしている邦画作品のようにテレビ局が製作に関与せず、東宝・東映、松竹といったメジャー配給会社ではない独立系配給会社によって配給された原作をもたない、オリジナル映画にも関わらず、公開されてから興行収入は徐々に伸び続け、最終的には14億円を突破した。そして、第30回日本アカデミー賞では最優秀作品賞、最優秀監督賞など6冠を達成した。しかしそれだけにはとどまらず、キネマ旬報ベスト・テンでは日本映画ベスト・ワン、第31回報知映画賞では最優秀邦画作品賞を受賞したのである。

この卒業論文では、ヒットする映画と評価される映画のそれぞれの要因を明らかにし、両者を両立させた映画『フラガール』をヒットする要因、評価される要因のそれぞれについての成功要因を探っていくものである。

第1章では、“評価される”映画の要因を分析した。そのために、キネマ旬報ベスト・テンの評価コメントを指標として用い、その結果4つの指標があることがわかった。そして、その中で監督が最も重要な指標であり、なおかつそれは演出力、探究心、情熱(主張)の3つに分類することができることが明らかになった。次に重要なのは、何かしらの社会性(その時代の問題、現代社会に通じる問題を使っていること)を背景とした映画であり、脚本、音楽という順番であった。『フラガール』への評価は、4つのうちのどれかが高い評価を得たわけではない。最も重要である監督に対する評価は高くはないが、社会性、脚本、音楽というほかの要素が補完的な役割をし、評価されたと考えられる。一方で、現代のヒットしている映画がテレビ局を中心に作られていること、そして原作の映画化という2つの特徴は、選考委員には受け入れられにくい要因となっている。また、過去の映画の特徴とは違う現代映画の特徴である、複数の時間軸や、時間の流れが一定ではないということ、映像にもっともらしさがないということが、評価されることへの弊害となっていると考えられる。

第2章では、“ヒットする”映画の要因を分析した。邦画復活といわれるほどの近年の邦画の活況には、シネマコンプレックスの拡大と製作委員会の浸透とそれにともなうテレビ局の台頭が大きく影響を与えている。東宝や東映、松竹といったメジャー配給会社もシネマコンプレックスに参入、あるいは外資系シネコンを買収したことによって興行網を拡大させた。それによって、ヒットする映画がメジャー配給会社によって独占、寡占される原因ともなっている。そして、同じ場所にいくつもの作品を選択する必要がある観客の保守化によって、原作がある映画がヒットしやすくなっている。また、製作委員会方式が浸透したことは、“ミズモノ”といわれる映画ビジネスのリスクを分散するための方式として浸透し、その中でテレビ局が映画製作の中心となっている。映画は“情報戦”の時代に入っており、テレビ局が保有するメディアや電波を積極的に活用することで、幅広いルートで映画の情報を提供することで、映画をヒットに導く方法が確立されたのである。テレビ局の関与、メジャー配給会社による配給、原作の映画化、それら3つの要因がヒットする映画の要因となっていると考えられる。

第3章では、映画『フラガール』のヒット要因を分析した。テレビ局やメジャー配給会社が関与しないオリジナル映画で興行収入10億円を超えた映画は、2002年~2006年の間では『フラガール』だけである。テレビスポットに依存することなく、アナログなフライベントを長期展開し、全国で3万人規模の試写会を実施したことにより、好意的な意見がネット上、特にブログ上に広まった。一方、映画の支持者を「応援団」と呼ぶことで、一種の仲間とし、さらなる支持や応援、が広がったと考えられる。『フラガール』のような全国公開されない映画を鑑賞する20代、30代に対しては、携帯電話を活用したキャンペーンを行っている。以上のようなPRやクチコミと、ロケ地であるいわき市のバックアップによって、映画のもつクオリティーの高さをバックに、アナログとデジタルなコミュニケーションが浸透し、『フラガール』を支持する好意的なクチコミが発生したと考えられる。

(中村佑貴)