2005年・2009年衆院選における新聞報道の内容分析 ~郵政選挙と政権交代選挙を新聞はどう報じたか~

2009年の衆院選では、自民党が119議席と惨敗する一方、民主党が308議席という圧倒的多数の議席を獲得し、政権交代に至った。これは、自民党が296議席と圧勝し、民主党が113議席と大敗を喫した2005年の衆院選、いわゆる「郵政選挙」と正反対の結果であった。本稿では、こうした極端な選挙結果をもたらした2005年と2009年の衆院選における新聞報道の内容分析を行うことで、選挙報道における問題点を探り、政治報道のあり方を検討した。

読売新聞の電子化されたデータベース、ヨミダス文書館を利用し、衆議院解散の翌日から投票日までの期間における「衆院選」というキーワードを含む記事を検出した上で、計量テキスト分析ソフト「KH Coder」を使用した内容分析を行った。

先行研究からの知見を踏まえ、分析項目として(1)政党名・政治家名の出現回数、(2)政策争点の出現回数、(3)戦略型報道と争点型報道の比率、(4)「郵政」「政権交代」というキーワードの特徴、の4点を設定した。語の出現回数を計測するフレーズ分析と、記事や文を「戦略型報道」「争点型報道」に分類するフレーム分析の手法によって、これらの分析項目を検討した。

<フレーズ分析>

  • 政党名・政治家名の出現回数では、2005年は自民党と自民党総裁に関する報道量が民主党と民主党代表に関する報道量を上回っていたが、2009年には両者の報道量が逆転した。2005年・2009年ともに両者の報道量の差は大きく、2005年は自民党、2009年は民主党に報道量の偏りが見られた。
  • 政策争点の出現回数を見ると、2005年は「郵政民営化」に関する報道量が突出し、その他の項目は低調な結果であったことから、郵政民営化が単一争点化したと見ることができる。一方2009年は、郵政民営化以外の「社会保障」「景気・雇用」「財政」「税制改革」「少子化・子育て」「外交・安全保障」という6項目が一定のバランスを持って報道されていた。

<フレーム分析(戦略型報道と争点型報道)>

  • 戦略型報道と争点型報道の比率を求めるために、コーディングルールに基づく「戦略型報道」と「争点型報道」の分類を行った。その結果、2005年は「戦略型」、2009年は「争点型」が多く見られた。なお、2005年に過熱した注目選挙区報道が2009年には減少したことも、戦略型報道減少の一因として挙げられるだろう。
  • また、(4)「郵政」「政権交代」というキーワードの特徴を検討するにあたっては、KH Coderの「共起ネットワーク」という機能を使用した。その結果、選挙のキーワードであった2005年の「郵政」、2009年の「政権交代」が争点型報道の文脈だけでなく、戦略型報道の文脈でも語られていたことがわかった。

以上の分析から、2005年の衆院選における新聞報道では、郵政民営化を巡る戦略型報道に傾き、報道量においても自民党に偏っていたことがわかった。一方2009年は、マニフェストの検証などの争点型報道が充実したが、政権交代を巡る戦略型報道も見られ、報道量においても民主党に偏っていたと言える。

メディアは世論を反映した議論を提示する必要があるが、メディアのバイアス報道が有権者の意思決定や世論形成に影響を与え、「振り子」とも言えるような極端な選挙結果をもたらしたという側面は否定できないだろう。選挙報道には、有権者が投票行動において判断する基準、材料を正確かつ公正に提供することが求められる。選挙による政権交代が現実となった今、選挙戦をどう伝えるかというテーマは、メディアにとってこれまで以上に大きな課題になることは言うまでもない。

(河野陽介)