携帯メールの利用状況から見る若者の人間関係

第4章 選択・不変共存型関係論 ~新しい若者の友人関係のモデル~

4-1 選択・不変共存型関係

 3‐5で、先行の論文だけでは若者の友人関係の説明が十分でないことを指摘した。この友人関係を明らかにすべく私たちが提示するのが「選択・不変共存型関係」というモデルである。このモデルは、選択的友人関係の言う「状況により付き合うことを選択する友人関係」がある一方で、常につながっていたい友人関係も存在するのだということを指している。お互いに切られないことを確信できる関係にある友人を持つことで、「自分が全ての友人から切られてしまう」不安を解消しようとするのではないか。このように、状況に関わらずつながりがON/OFFと変化しない友人関係が若者の中に存在するという点で、私たちのモデルは全ての友人関係が選択的であるとする「選択的関係論」とは考えを異にする。

4-2 携帯メールの新たな魅力(略)

4-3 「つながりの証」としての携帯メール ~保護メールに対する調査から~

 先述したように、若者はお互いに切れない友人関係を欲している。そして、自分専用のものであり、文字としてはっきりと形に残る携帯メールは、自分がつながりたい相手とつながっていることを実感させてくれる物的な証拠になり得るため、若者は携帯メールを頻繁に利用しているのではないかと指摘した。そこでこの指摘を実証するべく私たちは「保護メール」に注目し、調査を行った(ここで言う保護メールは、保護機能を使う使わないに限らず、意識的に消さずに残している携帯メール全般とする)。友人からの携帯メールを意識的に残すことは、携帯メールを単なる伝達手段とみなすのではなく、文字のやりとりゆえに形として残ることを評価している結果であると考えたからだ。

 調査は、2002年11月に大学生を中心とした18~25歳の若者に対して行い、以下の内容を質問した。

 一つ目に、保護している携帯メールがあるかどうか、そしてある場合には二つ目としてその内容を質問した。内容は保護しているメールが「友人からの誕生日のお祝いメールや嬉しかった言葉などの残しておきたいメール」「待ち合わせの詳細やサイトの保存のためなどデータとして残す必要のあったメール」「その他のメール」に大別したうちのどれに当てはまるかを答える形とし、それぞれの保護状況を整理した。

 なおサンプル数は129人、調査方法は携帯メールによってアンケートを送信し、それに対し返信してもらう形で行ったが、その返信率は100%であった。このアンケートでは、友人からの嬉しかった言葉などの残しておきたいメールを保護しているかどうかが最も重要になる。そのようなメールを保護しているということは、「はっきりと形として残るつながりの証」を携帯電話という肌見離さないモノに残していることになるからである。

 アンケート結果より、78%と大部分の若者が何らかのメールを保護していることがわかった。また保護メールの内訳として、友人からの嬉しかったメールを保護している割合が76%と最も高い。また、保護をしていない人も含めた全体の割合から見ても、携帯電話を持つ若者の60%の人が友人からの嬉しかったメールを保護していることになる。60%という割合は決して一般化することのできる割合ではないが、携帯メールを(それが意識的か無意識かは別として)友人同士のつながりの証、また安心材料として残している若者は少なくないと考えられる。また、アンケートの回答の中には自由記述で以下のような回答もあった。
「保護機能がないのでメールの保護はしていませんが、友達から来た嬉しいメールは日記帳に書き写しています。(22歳・女性)」
「その日あった面白いことを毎日お互い送信して、来たメールは全部ノートにまとめてある(20歳・女性)」
以上の回答はいずれも、「友人としてのやり取り」を意図的に記録として残している。携帯電話よりあえて書き写す手間をとってでも、友人からのメールを残したい、再び見返せるようにしておきたいと考える若者像がよく現れている。

 男女別で比較して見ると、友人からの嬉しかったメールを保護しているか否かに男女間でやや差があることがわかる。友人からの嬉しかったメール、データとしてのメールは女性の方がより高い数値になっているが、特に友人からの嬉しかったメールの割合において差の開きが大きい。これより、女性のほうがより友人関係に不安を抱いているか、目で見える確かなつながりの証拠を欲していると考えられる。

 今回の調査は、一般のサンプルを対象にしたわけではないところに問題が存在するが、多くの若者がメールを保護し、そのメールによって相手との“切れない”つながりを確認しているという点において、「選択・不変共存型関係」モデルを裏付ける。

4‐4 まとめ

 本章では、若者の友人関係に関する新しい「選択・不変共存型関係」モデルを提示し、その適切さを証明するために調査を行った。そしてその結果、私たちの「選択・不変共存型関係」モデルが有効であることを確認できた。若者は携帯メールを「つながりの証」として、自分と自分の望む相手とのつながりを実感するために活用している‐つまり、彼ら・彼女らは常につながりを実感していたいと願う友人をもっているのである。この点が私たちのモデルが主張するところであり、先行の論では説明がつかない部分である。

おわりに

 本論では、携帯メール利用の実態から、若者は選択的な友人関係を望む一方で、一部の人とは常に切れない関係を志向していることを明らかにしてきた。そして私たちはこの若者における友人関係を「選択・不変共存型関係」と名づけた。私たちの言う常に切れない友人とは、物理的距離の近さや、共有時間の長さには関係がない。そのため、かつての物理的距離が近い、共有時間が長い友人が親しい友人であった時代に若者であった人たちから見れば、現代の若者の友人関係は浅いものに映るのだろう。しかし、前述のように、現代の若者の友人関係においても親密な付き合いは確かに存在する。そして、四六時中一緒にいるようなべったりした関係そのものが「つながりの証」であったかつてとは違い、現代の若者の友人関係では、携帯メールが新たな「つながりの証」となっているのである。

 携帯メールが若者の主要なコミュニケーションツールになるとともに、若者の人間関係の希薄化とその希薄化を携帯メールが増長させているという声がしばしば聞かれるようになった。そしてその声を聞くたびに、私たちは携帯メールと希薄化との関連性、さらに希薄化そのものに疑問を感じていた。少なくとも私たちには親密な友人がいたからだ。今回本論に取り組み、等身大の若者の友人関係モデルを導き出せたことで、この疑問に対する答えを見出すことができたように思う。