本論文はマスメディアにおける少年犯罪報道のフレームが人々の事件の解釈―例えば、事件の原因やその責任の所在、少年犯罪の動向の認識、青少年のイメージなど―に及ぼす影響を検証することを課題としている。
第1章では、少年犯罪が増加・凶悪化・低年齢化しているという主張について検討を加え、メディアの少年犯罪の動向の解釈は妥当性について論じた。第2章では、フレーミングに関する先行研究を概観した。第3章では、研究の方法を述べた。第4章以降は、内容分析の結果、少年犯罪に特徴的なフレーミングがされた新聞記事を用いた実験について述べた。
第4章では、実在の少年事件の記事とともに最近起きた少年犯罪の事例の年表や摘発人数の増加に関する警視庁発表についての記事を提示するかどうかによってフレームを操作し、「過去の事例の参照あり」条件と「過去の事例の参照なし」条件の2条件の間で、事件の原因や責任、青少年のイメージについて差が生じるかを見た。過去の事例の参照により、原因が社会風潮にあるとされ、少年の責任は緩和されるのではないか、そして、青少年のイメージについては、青少年の犯罪が増加しているという印象を持つのではないか、という仮説を立てた。しかし、仮説を支持する結果は得られなかった。
第5章では、実際に起きた少年事件について、同一の記事の小見出しを事件前の問題行動を強調したもの、あるいは少年が非行歴もなく成績も優秀な模範的生徒であったことを強調したものにするかによってフレームの操作を行い、「問題行動あり」条件と「問題行動なし」条件の2条件で事件の原因や責任、青少年のイメージについて差が生じるかを見た。問題行動が強調されることで原因を少年に帰属し、少年の責任が大きいとみなされるのではないか、そして、家庭や学校といった少年に身近な環境での少年犯罪防止のための対策を選択するのではないかという仮説を立てた。しかし、仮説を支持する結果は得られなかった。
第6章は、事件を起こした少年の学校での様子について、同一の記事の小見出しを事件が現代の青少年が持つ「心の闇」の部分によって引き起こされたことを強調した「『心の闇』使用」条件と事件の引き金になったのは少年の苛立ちだったということを強調した「『心の闇』不使用」条件の2条件で、事件の原因や責任、青少年のイメージについて差が生じるかを見た。「心の闇」を使用することで、原因が社会風潮にあるとされ、少年への責任帰属が緩和されるのではないか、そして、社会レベルでの少年犯罪防止のための対策を選択するのではないかという仮説を立てた。しかし、この実験でも、仮説を支持する結果は得られなかった。
3つの実験でよい結果が得られなかった理由として、3つの実験に共通する要因として、(1)フレームの操作と記事に使った事件の選択に問題があったこと、(2)質問紙に一部不備があったこと、(3)回答が少年犯罪に対する最近のメディアの論調の影響を受けていた可能性があること、の3点が考えられる。 今後は(3)のメディアの論調の影響を視野に入れ、メディアの接触状況と少年犯罪の動向の認識の間にどのような関係があるのかを調べてみる必要性があるだろう。