2005年衆院選における新聞報道の内容分析~「劇場型」選挙を新聞はどう伝えたか~

2005年衆院選における新しい政治現象は、小泉自民党による郵政反対派への「刺客」擁立などの「劇場型」選挙と、郵政民営化の単一争点化であった。この二つの現象をメディアはどのように報道したのであろうか。

 本稿では公示日の2005年8月30日から投票日の2005年9月11日までの朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞を分析対象とした。また、記事を形式から「記事本数」を単位として分類する「報道量分析」、記事を選挙報道の主題内容から「争点型フレーム」「戦略型フレーム」「選管型フレーム」の3つのいずれかに振り分ける「フレーム分析」、記事から特定のフレーズが出現する回数を計測し、その回数から記事の傾向を分析する「フレーズ分析」によって分析を行った。

 仮説としては、①「新聞各紙は小泉自民党による「劇場型」選挙の演出によって、紙面の多くを自民党中心の政局報道に割いた。」②「新聞各紙は政策課題の議題設定については、自民党が争点に掲げた郵政民営化を中心にしながらも民主党が掲げた年金問題や、憲法、増税問題なども取り上げ、政局報道ほどは自民党に偏ってはいなかった。」の二つをたてた。

 分析結果は、戦略型フレーム報道の比率および戦略型フレーム報道内での自民党の報道比率が高かったことを示した。戦略型フレーム報道は5割を超え、戦略型フレーム記事の中では自民党・自民党政治家フレーズの出現回数は民主党・民主党政治家フレーズの2倍以上であった。特定の政党が中心となっている記事数でも自民党は全体の6割を占め、注目選挙区のレポートでは、「刺客対造反組」の選挙区が5割を超えていた。以上の結果から、仮説①は支持されたといえよう。
 フレーズ分析の分析結果から、「年金」の出現回数が「郵政」を上回り、「憲法」や「増税」もそれぞれ「年金」や「郵政」の1/3、1/2の出現回数があった。争点型フレーム報道における「郵政」の「年金」に対する出現比率は、戦略型フレーム報道における「自民・自民政治家」の「民主・民主政治家」の比率を下回っていた。下位フレームの記事数においても郵政と年金は拮抗していた。以上の結果から、仮説②は支持されたと言えよう。

 選挙報道の機能は、①選挙の存在・仕組みを周知させ、政党名や候補者名を有権者に周知させること、②候補者や各政党幹部の運動・戦略や分析など選挙の情勢に関する情報の提供、政策争点や候補者の資質など、③選挙で有権者が投票行動において判断する基準、材料を提供することの3点である。特に「言論メディア」である新聞は、有権者に対して問題提起をしていくことが不可欠であるが、報道が劇場型になっていたこと、報道量が自民党が自民党に偏っていたことから、2005年衆院選において適当な問題提起を新聞各紙が行なえていたかは疑問である。
 日本の選挙キャンペーンは近年アメリカ的な色彩を強めている。政党や政治家は将来さらに「メディアをどう使うか」を意識して行動してくるであろう。対するメディアは巧みなキャンペーンに流されることなく、有権者に有益な投票の選択材料を提供していく責務がある。「選挙をどう伝えるか」はメディアにとっても大きな課題となるであろう。その際に、計量的な観点から選挙報道を分析して、絶えずその問題点を見いだしていく必要があると考える。