多様性の時代における流行の生産と消費:ファッション誌の内容分析と受容度の調査を通して

街を歩く女性たちは、様々な系統のファッションに身を包んでいる。また、それに対応するように、今現在、多様な女性ファッション誌が数多く発行されている。このことから、女性のファッションには、様々な系統が存在するということが分かる。

女性のファッションにおいては、流行というものが重要な要素になっている。この流行に対する態度も、人それぞれである。たとえば、2008年秋・冬には、チェック柄が今季の流行としてマス・メディアに取り上げられているが、他の系統の人々より、ギャル系の人はチェック柄を積極的に取り入れているように感じられる。流行に対する態度は、ファッションの系統によって異なっているのだろうか。そして、流行に対する態度がファッションの系統によって異なるとすれば、それは一体なぜなのだろうか。

また、これまでに、様々な流行がファッション誌などのマス・メディアから生まれてきた事例がある。現代の流行は、自然発生的に生まれるものではなく、ファッション誌をはじめとするマス・メディアによってつくられる傾向にある。ファッション誌の流行に与える影響は非常に大きいと考えられる。

そこで本研究では、ファッションの系統と流行受容度の関連について、実際に街でフィールドワークを行うことによって検討した。また、フィールドワークの結果に基づき、付加的にファッション誌の内容分析を行うことによって、ファッション誌が人々の流行に対する態度に影響を与えているかどうかも検討した。

2008年秋・冬の流行の指標としてチェック柄を採用し、実際にチェック柄のアイテムを身につけている人の割合(=流行採用率)をファッション系統別に調査し、比較した。調査は11月の中旬から下旬にかけて行った。東京都内のファッションエリア(渋谷、新宿、原宿、銀座、代官山)に行き、街を歩く女性たちの写真をデジタルカメラで各エリアごとに2時間、合計1800枚撮影した。調査対象は、カメラの前を通った10代後半~30代の女性である。写真に写っていた女性を渡辺(2005)の先行研究に基づき、5つの系統(ギャル系、ガールズ・カジュアル系、ボーイッシュ・エクストリーム系、コンサバ・キャリア系、スタイリッシュ・フェミニン系)に分類し、系統別に流行採用率を算出し、比較した。ファッションの系統によって流行受容度が異なるということが分かった。

そして、これまでファッションに大きな影響を与えてきたファッション誌の影響を探るため、女性ファッション誌の内容分析を行った。まず、ファッションの各系統を代表する雑誌、つまり発行部数が最も多い雑誌(ギャル系は『ViVi』、ガールズ・カジュアル系は『non-no』、ボーイッシュ・エクストリーム系は『mini』、コンサバ・キャリア系は『with』、スタイリッシュ・フェミニン系は『sweet』)が、チェック柄をどのように誌面で取り上げているかを、量と質の両面から分析する。それによって明らかになったファッション誌のチェック柄の流行としての強調度と、調査によって得た各系統の流行採用率のデータとを比較した。すると、雑誌の傾向がマニュアル的であるか、カタログ的であるかによって、流行の採用率の高低が分かれていた。雑誌が流行受容度に影響を与えているという可能性があることが分かった。

本研究を通して見えてきたのは、現代における価値観の多様化と、それを反映した流行情報を発信するマス・メディアによって作られる流行現象の多面性であった。流行のあり方が現代においては変化してきている。以前は数多く見られた、社会現象とも言えるような大きな流行現象はここ最近起きていない。現代は、価値観が多様化し、趣味や嗜好も無数に広がっている、多様性の時代であるといえる。そのような時代の中で、マス・メディアが作り出す流行に対して、「そんなものに振り回されるのは恥ずかしい」と、冷めている人たちもいるのである。そのため、誰もが飛びつき、熱狂的に支持するような流行というものは、発生しにくくなっている。その結果、調査によって明らかになったように、ファッションの系統によって、流行を取り入れる人の割合も異なっている。ファッションの系統の違いとは、単なる趣味・嗜好の違いだけではなく、流行に対する考え方も含めた価値観の違いなのである。

現実に街で流行しだす前から、いち早くファッション誌などのマス・メディアが「今年のトレンドは○○」という風に、トレンドを発信するのが現代のファッション誌の全体的な傾向である。しかし、ファッション誌のあり方も一様ではなく、ファッション誌の流行情報の発信の仕方も様々であるが、それによって読者の異なる流行観を形成し、流行に対する態度に影響を与えている可能性が明らかになった。

現代における流行とは、「マス・メディアによって流行と呼ばれるもの」と言い換えられるといっても過言ではない。そのような流行に飛びつく人もいれば、そうではない人もいる。マス・メディアによって、自分の行動を規定する人もいれば、逆に反発する人もいる。いずれにしろ、消費者の価値観とニーズの多様化という状況の中では、多様化したマス・メディアと多様化した人との間の共鳴によって、流行は多面性を持って発生するのである。このような成熟社会のあり方が、現代の流行現象をより複雑なものにしているのである。

(二瓶佐和子)