政治報道の客観性と報道スタンスの関係-解釈報道及び推測・意見報道と政府与党に対する否定的報道の関連を探る-

はじめに

 本研究は、テレビのニュース番組内で行われる政治報道について、報道内容の客観性と、現政権及び与党勢力に対する報道のスタンスとの関連を探るものである。2004年7月11日に行われた第20回参議院議員通常選挙において、自由民主党はわずか1議席の減にとどまったにもかかわらず各メディアで「敗北」という論評をされていた。このことから選挙結果に対する報道機関側の意図的な解釈や推測・意見に基づく報道が、政府に対する否定的な評価につながっているのではないかという問題意識を抱き、NHKと民放の夜のニュース番組について内容分析を行い検討した。また「公正・中立で客観的な報道」の定義や、これからの報道のあるべき姿にも言及している。

公正・中立で客観的な報道の定義

 放送法第3条の2にある「政治的に公平であること」「報道は事実をまげないですること」「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」の3点や各放送局の放送基準を元に、公正・中立で客観的な報道を次のように定義し、内容分析を行う上での指針とした。

  1. 事実を歪めずありのままに伝える報道
  2. (解釈的、意見的な要素がある場合)事実に即した解釈や意見を述べている報道
  3. (解釈的、意見的な要素がある場合)多面的な解釈や意見を述べている報道

全体的考察と今後の課題

 内容分析の結果、5番組中『NHKニュース10』『報道ステーション』『筑紫哲也News23』の3番組において、報道の客観性が低くなるにつれて否定的報道が増加していた。また『きょうの出来事』についても解釈報道において否定的報道の割合が最も高かった。この要因としてはマスメディアのチェック機能が挙げられる。政府与党を情報源とするニュースをただ垂れ流す「発表ジャーナリズム」への懸念から、さまざまな情報を批判的に扱い行政の不正を糺そうとする行動はマスメディアの正当な役割である。
 しかし、『筑紫哲也News23』など一部の番組では、客観的事実に基づかない推測・意見報道の形で政府与党を過度に批判する報道が数多く見られた。このような報道は、前述した公正・中立で客観的な報道の定義に照らしてあってはならないものである。分析対象時期が拉致被害者に関する日朝実務者協議の時期と重なり、日本政府に対する中立的な報道が多くなっていたことを考え合わせると、このような傾向はニュース番組全体に存在し得ると言えるかもしれない。マスコミに求められる役割は本来視聴者に政治的判断の材料を提示するというものであり、自らの意見を視聴者に押し付けるというものではないはずである。その点を肝に銘じ、各報道機関には今一度報道姿勢を見直すことが求められる。