昨今、日本国内市場の成熟化と通信情報技術の発展を背景に、国内化粧品業界では既存顧客との関係性を深めることを目的としたウェブマーケティングに注目が高まっている。化粧品メーカーに限らず多くのBtoC企業は自社サイトを中心に、ウェブの大きな特徴である相互作用性を備えたウェブコミュニケーションを展開しているが、この相互作用性はインターフェイス上の客観的指標で画一的に測定できる機能的相互作用性と、消費者の視点によって評価が左右される知覚相互作用性に分類される。
後者は、インターネット上での消費者個人が発言する環境が整い、またマーケティングやブランディングにおいてその影響力が増大している中で、大きな関心が寄せられている概念である。知覚相互作用性は顧客リレーションシップの構築に対して重要な影響力を持つと先行研究により確認されているものの、その関係性の質が高まる範囲は顧客リレーションシップのいずれの段階においてなのか、解明されてこなかった。
そこで本研究では、顧客リレーションシップが深まる段階に注目し、知覚相互作用性の効果に関するリサーチクエスチョン「知覚相互作用性は、顧客リレーションシップの維持・強化プロセスを意味する深化段階においても有効性を発揮するか」を検証した。実在する化粧品ブランド(メイベリン ニューヨーク)のウェブサイトを研究材料として扱い、製品を1年以内に購入した経験がある20代女性5名へのインタビュー調査を行った。なお検証に際して、定性コーディングという分析手法を採用した。
その結果、知覚相互作用性は顧客リレーションシップの構築段階のみならず、その関係性が深まる段階においても、有効性を発揮することが明らかになった。ただし、知覚相互作用性の影響はウェブサイトへの態度を介した間接的なものとして示された。また、ウェブサイトの態度とロイヤルティの変化への影響に関しては顧客リレーションシップ年齢が媒介しており、その年齢が低いほど影響力が大きくなると推測された。
今後の課題として、慎重なリサーチデザインの必要性が指摘できる。本研究では知覚相互作用性の尺度が持つ意図を正確に反映した質問項目の設定、顧客リレーションシップの段階の定義、実際のウェブコミュニケーションを想定した継続的な調査の必要性まで様々な改善点があった。また本研究では回答者数が少ないという大きな問題も抱えており、反証を試みてはいるものの、モデルの一般性を示すまでには至っていない。最後に本研究の題材としたオウンドメディアのみならず、新たなコミュニケーションプラットフォームとして活用が期待されるソーシャルメディアへの議論拡張の必要性についても論じている。