本論文は、Facebookの利用が他者の印象認知においてあたえる影響について、その利用態度に着目しながら検証したものである。SNSが人びとの生活に欠かせないツールとして普及し、社会的ネットワークの構築を促進させているとともに、つながりをもたらすSNSが逆に人びとに孤独や不安といった心理的圧力を与えているという趣旨の報道も度々目にするようになった。そういった報道の多くは、SNSから離れ、その利用をやめるという対処方法を提示する。しかし筆者は、そうではなく、どのような利用の仕方が心理的圧力を増加させ、どのような利用の仕方であれば健全にSNSを楽しむことができるのか、という点をより具体的に明らかにしたいと考えた。そこで、2012年の夏、ネット上に溢れた「Facebookをやればやるほど不幸になる」というニュースの元となったアメリカの論文を、利用態度に着目しながら応用し、日本で再検証することを試みた。
先行研究では、「Facebook利用時間が長い人ほど、他者が自分より幸せそうに感じる」、「Facebook上の友達に、現在実生活ではあまり親交がない人物を多く含む人ほど、他者が自分より幸せそうに感じる」という現象が明らかになっている。これは、利用可能性ヒューリスティックと対応バイアスという2つの社会心理学理論を用いて説明される。しかし、SNSの利用態度には「主に閲覧のみ」と「閲覧の投稿の両方」という2通りがある。また「投稿」という経験は利用可能性ヒューリスティックを抑制する認知資源となり得ると考えられる。そこで、利用可能性ヒューリスティックについては、先行研究からより発展させた形で、「主に閲覧のみの利用をしている人に限り、閲覧時間が長いほど、他者は自分より幸せそうに感じる」という仮説1を構築、対応バイアスについては先行研究どおり、「利用態度に関わらず、現在実生活ではあまり親交がない人物を多くFacebook上の友達に含む人ほど、他者は自分より幸せそうに感じる」という仮説2を再検証という形で研究を行った。
仮説の検証に際し、本大学の生徒188名にweb上で質問票調査を行い、統計的に分析を行った。その結果、仮説1は棄却、仮説2は部分的に支持された。すなわち、閲覧時間が長い人ほど友人が自分より幸せそうに見えるという現象は、投稿経験に関わらずそもそも日本の学生を対象にした調査では見られないということがわかった。そしてそれは、利用可能性ヒューリスティックは途中までは生じるが、途中で何らかの要因により抑制されているためである可能性が示唆された。また、実生活ではあまり親交がない人物と多くFacebook上でつながっている人ほど、他者が自分より楽しい毎日を送っていると感じる傾向があること、しかし対応バイアスが生じる範囲には限界があることがわかった。
以上の結果を踏まえて、Facebookを健全に楽しむ方法を具体的に考えると、閲覧時間を短縮させるのではなく、Facebook以外で親交の無い友人を必要以上に増やさないことが有効であることが明らかとなった。