「ダイエット」という概念は、これまで大きな文化的広がりを持ちながら変化してきた。その歴史の中で、最も大きな動きを上げるならば、女性たちが巻き起こしたダイエットブームであろう。この背景には、経済の動き、女性を取り巻く大きな環境の変化(女性の社会進出にともなうライフコースの多様化、性役割規範の再編成)があったとされている。さらに、このような女性の意識、価値観とダイエットが結びつき、ブームとなった裏には、文化を形成しつつ反映するといった「メディアと社会の循環作用」が存在する。
今日もなお引き続くダイエットブームであるが、そのきっかけであったメディア、女性の社会的地位、経済状況といった背景が大きく変化した今、それに伴い「ダイエット」のあり様も変化しつつあるのではないだろうか。
そこで、「(1)若年女性のダイエットブームの実態とその概念の変遷をメディアにおける記述から明らかにすること」「(2)ブームの盛衰と概念の変遷の関連を考察し、ダイエットブームの規定要因を探ること」の2点を目的として設定し、本研究を行うこととした。
分析は、文化受容とイデオロギー観察に有効だとされる「女性雑誌」を対象とし、掲載されるダイエットに関連する記事の量、そのタイトルから読み取ることのできるダイエット概念の変遷に着目した。具体的には、記事量の盛衰、及び社会的要因との関連を考察した後、記事タイトル表現から読み取られる概念の変化を、(a)目的(b)方法(c)期待報酬の3つの観点から分析を行うという方法をとった。さらに、「概念の変化」と「ブームの盛衰」の両者の関係性を、中原・林(2005)が明らかにした「ダイエット行動における心理メカニズム」のモデルの概念の中で考察することで、ダイエット行為を喚起しうるメッセージ内容を検討した。
結果、(1)の問いに関しては、「ダイエットブームが2000年以降停滞期に入っていること」「ダイエット概念が3つのどの観点においても変化が見られること」が明らかにされた。具体的な概念の変化とは、「美を目的とするダイエットの増加」「4つの特徴―運動・短期・精神性・女性性―を持つダイエットの増加」「女性性獲得のためのダイエットの増加」「期待報酬の多様化」であった。
(2)の問いに関しては、「メディアメッセージの多くは、ダイエット行動意図を規定する3つの要因全てにプラスの影響を持つこと」「その中で『痩身願望』『ダイエット行動コントロール感』の2つに関連するメッセージ内容に、大きな変化が見られること」を考察した。
また、以上の結果から、ダイエットブームの停滞の原因を、「痩身願望」に影響する「女性の社会的地位の向上による価値観の変化」に求め、今後、ダイエットブームが衰退に向かう可能性を指摘した。
本研究の意義は、「社会とメディアの循環作用」の妥当性を示すとともに、その過程・メカニズムを明らかにした点であった。一方、今後の課題として反省される点は「データ分析の技術向上」「ダイエット概念の分析枠組みの再考」「タイトル表現が持つ実際の効果の検討」の3点であった。