本研究は、購買意志決定時において、消費者の心理というミクロフレームから「広告・レビューの効果を相対的に測定する」ことを出発点としている。筆者は、メディアそのものが持つ効果や、メディアが購買行動に与える影響を相対的に測定することが非常に難しいという問題意識を持っており、実務への貢献のためにもメディアや情報源単体の効果を、相対的に検証を行うことが必要であると考えた。また、ソーシャルメディアが流行する現在に、レビューが与える影響の測定も重要なテーマであると認識していた。
検証に際しては、「古典的な期待効用理論では説明できない現実の人々の選択の仕方についての理論的説明を与えるもの」(阿部,2009)だとされる解釈レベル理論を用いた。解釈レベル理論とは、対象との心理的距離の遠近によって決定される解釈レベルによって、対象への評価や好みが異なってくるという理論である。本理論によれば、心理的距離の近い消費者は、低次の解釈レベルであるので、副次的属性を好む一方、心理的距離の遠い消費者は、高次の解釈レベルであるので、本質的属性を高く評価するとされている。
そこで、デジタル機器の購買意志決定時において、「製品などの対象評価におけるレビューの内容と心理的距離、特に社会的距離の関係を検証する」ことを、実験における目的とした。
上記目的を達成するために、19-23歳の大学生60名(男性27名、女性33名。平均年齢は20.28歳)を対象に実験を行った。本実験は、社会的距離(近い群、遠い群)と、レビューにおけるポジティブメッセージの属性(本質的属性条件、副次的属性条件)を独立変数とする2要因研究参加者間計画であった。なお、社会的距離は「購買者条件」と「レビュアー属性」によって操作された。
実験では、実験参加者は、実験刺激であるパンフレットとレビューを閲覧したのち、デジタルカメラとスマートフォンのそれぞれに関して、対象評価に関する質問項目に回答した。
実験に際し、解釈レベル理論とレビューと消費者行動に関する先行研究に沿って、以下の仮説を設定した。
仮説1.社会的距離が遠い条件におかれた人々は、商品の本質的側面を重要視する(高次の解釈を行う)と考えられるので、本質的側面がポジティブに描かれる条件において、対象に好意的な反応を示す。
仮説2.社会的距離が近い条件におかれた人々は、商品の副次的側面を重要視する(低次の解釈を行う)と考えられるので、副次的側面がポジティブに描かれるレビュー条件において、対象に好意的な反応を示す。
仮説3.仮説1.(社会的距離が遠い条件)よりも仮説2.(社会的距離が近い条件)の方がより顕著である。
仮説を検証するため、二元配置分散分析を行ったところ、以下の結果が得られた。
まず、購買意志決定における情報源(パンフレット、レビュー、両者への態度)に関しては、仮説1.と仮説2.は部分的に有効性が示された。交互作用は一部を除いて、ほとんど見られなかったが、社会的距離が近い条件で、消費者は対象を高く評価する傾向が見られた。一方で、購買意志決定におけるターゲット(製品、ブランドへの態度)に関しては、有効性は立証されなかった。すなわち、情報源評価において仮説1.と仮説2.は部分的に支持されたが、ターゲット評価においては全面的に棄却された。また、有意であった部分に関しては、仮説3.は支持された。
よって、本研究では、購買意志決定における情報源の評価において、解釈レベル理論に沿った結果が部分的に得られるとともに、社会的距離が有意に影響を与えることが示された。また、購買意志決定のそれぞれのプロセス(情報源の評価、ターゲット製品の評価)において、解釈レベルが継続しにくいことが示唆された。