本論文の目的は、現在世を賑わせているエコブームの実態・構造を明らかにしていくことである。ここで、エコブームを「生活者の間で環境に配慮した製品・サービス・ライフスタイルが急速に浸透・拡大している状態」と定義する。
生活者の間のエコブームを検証していくために、「行政から見るエコ」・「企業から見るエコ」・「生活者から見るエコ」と題して、行政・企業・生活者の3者の視点から考えた。
「行政から見るエコ」では、環境政策・環境史について見ていった。「環境への優しさ」を提唱するエコブームであるが、そもそもの環境概念を考えていくためである。ここでは、時代と共に行政の環境への対応・環境概念の変化が明らかとなった。1960年代、工業化と共に環境問題は発生した。当時、工業型環境問題に対して、行政の対応は産業界に対する局所的・後追い的な環境政策に留まった。しかし70年代以降、生活者のライフスタイルが原因となる環境問題が拡大し、さらにオゾン層破壊など地球環境問題に対する人々の危機感も募った。このような背景から、行政は生活者を巻き込んだ、より広範でリスクヘッジ型の環境対応が求められるようになった。
「企業から見るエコ」では、企業の環境経営について見ていった。エコプロダクツ(環境配慮型商品)を提供する企業の環境対応は、エコブームと大きく関わるためである。企業は地球環境への負荷が最も大きなセクターであり、社会的な要請から環境経営を進めている。環境経営には、①環境対策・法規制対応型②環境経営・協調戦略型③環境経営・競争戦略型が存在し、その進度は業種・企業によってまちまちである。調査では、依然と比較してより積極的な環境経営を行おうとする企業が増え、生活者に対する環境コミュニケーション活動に注目が集まっている。その一つとして、エコラベル・環境広告・エコプロダクツなどが挙げられる。
「生活者が見るエコ」では、生活者の環境に関する調査を中心に、エコブームの実状を見ていった。エコブームの実例を見ていくと、エコカーやエコバッグなど、エコブームの中心にはエコプロダクツが存在する。このようなエコプロダクツに関心を示し、エコブームを形成している層を「エコイスト」と呼ぶことができる。エコイストは実利とエコの両立を求め、無理なく実践出来るエコロジ―行動を行っている層であることがわかった。現在この層の厚みが増し、エコブームを形成している。また、エコバッグやエコカーブームのきっかけは、行政の環境政策が関わっている。過熱化するエコブームにおいて、グリーンウオッシュや企業と生活者の環境コミュニケーションの乖離という課題も見えてくる。
行政・企業・生活者の視点から見ていくなかで、エコブームは、エコを実践する生活者、エコプロダクツを提供する企業、企業の環境経営を促進する行政によって成り立っていることが明らかとなった。
(井原亜利紗)