生活者とメディアの関わり方、生活者を取り巻くメディア環境には、近年大きな変化が起きている。これに伴い、生活者とブランドの重要な接点として機能してきた「広告」にも変化が求められるようになった。つまり、企業もマスメディア広告を主軸としたマーケティング戦略を見直さねばならなくなった。「マスメディアを活用し、大衆に向けて、企業側から一方的に商品・サービス・ブランドに関するポジティブな情報を発信する」という従来の手法では、生活者のココロを動かすことが困難だからだ。生活者は今や、様々な情報端末を同時並行で活用し、いつでも好きな場所で欲しい情報を能動的に入手することができる。自分にとって不要な情報は遮断し、有益な情報は独自のネットワークを用いて積極的に収集・共有する。本論文の目的は、このような「メディア」「生活者」「企業」の変化を整理しつつ、今「広告」が迎えつつある変化の概観を捉えることで、「広告」が生活者とブランドとの間で、ココロを動かす接点として機能し続ける為に何が必要かを考察することである。
まず、第1章で「テレビ・新聞・雑誌・ラジオ4媒体における広告費の大きな落ちこみ(=マス広告の不振)」をトピックとして取り上げることで、その背景として「メディア」「生活者」「企業(広告主)」という3者におきている変化を整理する。整理の切り口は、【生活者のマスメディア離れ】、【生活者のマス広告への懐疑心】【広告主のマス広告への懐疑心】の三つである。
続く第2章は、「広告」が迎えつつある変化の概観・考察の前提として、CGM(Consumer Generated Media)をトピックとし、生活者のココロを動かす広告としての1つの成功モデルを提案する。CGMとは、生活者のインターネット上での情報発信・共有行動が顕著となり、「オンライン上で生活者らがネットワークを形成する場」自体を一つのメディアとして捉えたものである。また本論文が提唱する、時代に即した広告の成功モデルとは「CGM上の生活者の口コミによって伝播される広告」である。以下「CGMを駆け巡る広告」と表現する。広告と接触した生活者の行動の背後には、「自分の体験や感情を誰かと共有したい」という気持ちが存在し、その生活者は広告によってココロを動かされていると考えた。上記の視点から、生活者の広告を口コミで伝える行動が、広告効果の裏付けとして一定の説明力を持つという見解を提示した。
第3章では、「広告」が迎えつつある変化の概観・考察を、第2章で提示した「生活者の口コミ行動こそ、生活者のココロを動きの証明である」という着眼点を用いて行った。具体的には、現代の生活者に顕著な、有益な情報に対する能動的な姿勢を前提とした広告(インタラクティブ広告)として高い評価を受けている事例に関するCGM上での口コミ調査を実施した。考察部分では、生活者に感動を与える仕掛けの違いや共通項に着目することで、従来のマス広告と、「CGMを駆け巡る広告」との間の最大の差は「生活者の位置づけ」であると結論づけた。従来の広告では、生活者は広告の枠の外で、企業がメディア上で描いた「登場人物がブランドとの出会いによって感動を体験する」という画を見せられていた。しかし、「CGMを駆け巡る広告」では、生活者は広告の枠の中で直接ブランドを体感する主体として位置付けられている。これこそが、生活者のココロを動かす広告づくりの鍵であると結論づけた。
第4章では、論文全体の総括と、広告が生活者のココロを動かすものになっていくことで、社会に与えるだろうポジティブな影響について言及し、本論文の結びとした。
(櫛田直希)