プロスポーツの観客数増加へ ~起業スポーツ時代のビジネス成功への道~

1993年のJリーグ開幕により、日本のプロスポーツ界は大きく変化した。企業が選手やチームを管理する従来の企業スポーツ体制とは異なり、地域に密着し、財政的にも自立したプロスポーツ組織が急激に増加したのである。その意図は、「企業利益を追求する」のではなく、「地域住民と共に活動しながら、地域のスポーツ文化の定着と振興を図る」ことにある。こうした傾向は、Jリーグ加盟チームの増加や、日本初のプロバスケットボールリーグであるbjリーグの開幕によって加速し、企業スポーツに代わる「起業スポーツ時代」の到来が予感されるまでとなってきている。しかし、非企業型のスポーツ組織が次々と誕生するものの、それらスポーツ組織の経営基盤は脆く、未だに親企業の支援に頼っているのが現状である。地域のスポーツ文化の定着と振興という目的を遂行するためにも、親企業に依存しない、スポーツ組織の自助努力によって成立するような経営システムの構築が、今後の必須課題といえる。本稿では、試合会場まで足を運び、選手を応援してくれる観客に注目し、観客数の増加こそ経営基盤確立の鍵であると考えた。

観客数の増加に注目したのは、三つの理由がある。一つ目は、収入増加の期待である。試合の放送権料が低い日本において、観客がもたらす入場料収入は、プロスポーツ組織の主要な収入源である。日本のプロスポーツは、アメリカ4大スポーツや、ビッグ5を中心とする欧州サッカーリーグなど、海外のプロスポーツリーグに比べて観客数が少ない。しかし、逆に言えば、観客を集めるノウハウを確立できれば、これまで以上の観客数が期待でき、入場料収入を増大させることが可能なのである。二つ目は、観客数の増加がもたらす間接的な効果である。プロスポーツ組織には、スポーンサー企業やメディアなど、多様なステークホルダーが存在するが、全てのステークホルダーにとって、プロスポーツ組織に協力する目的上、観客数の増加は望ましいものである。ゆえに、観客数を増加させることは、結果としてステークホルダーとの関係構築を優位にするのである。三つ目は、ファンとの関係構築である。プロスポーツ組織の成績は変動しやすく、成績不振によって大きく観客数を減らす場合もある。チームの成績不振に揺るがない経営を実現するためにも、ファンに試合会場まで足を運んできてもらい、選手やチームとの心理的コミットメントを深め、チーム・ロイヤルティを向上させていくことが必要となる。

こうした考えのもと、著者は一橋大学の学生を対象としたウェブ調査を実施した。ウェブ調査では、スポーツを野球・サッカー・バスケットボールの3種目に絞り、観戦経験の有無や観戦時の満足度など、いくつか項目を設けて、観客数増加のための手掛りとした。なお、ウェブ調査では、ライブ観戦経験の有無と、メディア接触の有無(テレビ・ラジオの中継による観戦をしたり、テレビニュース・新聞・インターネットで試合結果を確認したりする)の2つを基準に、回答者を4つのセグメントに分類し、比較分析を行っている。ウェブ調査の結果と、実際にプロスポーツ組織によって実施されている戦略をもとに、本稿で考えた観客数増加の戦略は、(1)アメリカ的なステージングの導入、(2)最小のコミュニティ単位である「家族」へのアプローチ、(3)楽しめるスタジアムづくり、(4)学生のチケット価格設定、の4つである。ただし、これらは、3つのプロスポーツの全般的な傾向をもとに考案したものであり、ファンの性質や地域環境の条件など、チームごとに変動する要因を加味したものではない。本稿の分析に加えて、チームごとの特性を把握した観客数増加の戦略を考えることが今後の課題である。

(松本望)