海外では見られない日本人の行動に「デコレーション」が挙げられる。携帯電話やポータブル・オーディオ・プレーヤー、デジタルカメラ、小物ケースなどを対象に行なわれるデコレーションは、現在そのバリエーションを広げながら、徐々に受容層を広げている。本論文はそうしたデコレーションを、デコレーションとは何か、なぜデコレーションを行なうのか、デコレーションとは社会現象としてはどのようなものか、という三つの観点から解き明かしていくことを目的としている。デコレーション・サロンやパーツ・ショップ、デコレーションのスクール、協会、関連出版物の出版社を対象におこなったインタビューをもとに、これらについて観察、考察を加える。
デコレーションは現時点では、若い女性を中心に広がる装飾行為である。あらゆるものを対象に、ラインストーンや、樹脂、布などでできたパーツなどで様々なデザインを描きだすことができる。デコレーションはプロのアーティストに施術してもらうこともできるが、一方で自ら「デコる」こともできる。サロンでの施術は割高であるが、自分で行なえば安価で完成させることができる。また、デコレーションはネイルやファッションとも深い関わりをもっている。
デコレーションへ向かうモチベーションは九つに分類できる。それらは、①かわいいから②キラキラが好きだから③流行っているから④人と違うものをもちたいから⑤好きな芸能人がやっているから⑥特別感を出したいから⑦傷などを隠すため⑧自己表現の場になるから⑨デコレーションをするという行為そのものの楽しさや達成感、である。サロンでデコレーションをするサロン派は①から⑧のモチベーションが、自主制作派には①から⑨のモチベーションが当てはまる。これらのモチベーションは相互に関連しあう連動的な心理である。このなかの一つ、あるいは複数のモチベーションをもとにデコレーションの採用が実現すると考えられる。
また、現在のデコレーションは、社会現象としてはメインカルチャーになりつつあるサブカルチャーであるといえる。本来、特定の層によって実践されていたサブカルチャー的要素をもつデコレーションは、昨今のバリエーションの充実化や、趣味としての楽しみ方の確立、家電量販店への進出など、様々な面において変化し始めている。こうした動きはデコレーションというサブカルチャーをメインカルチャーに接近、融合させると同時に、デコレーションの下位にさらなるサブカルチャーを形成する。こうしたメインカルチャーとの相互作用関係の深化と段階的な限界的特殊化の進行により、デコレーションは「キャズム」を超えようとする、メイン化しつつあるサブカルチャーへと変貌し始めているといえる。
こうしたデコレーションは、今後、国内、海外でどのような発展を見せるのだろうか。デコレーションはその装飾という性質の面でも、モチベーションという面においても、ある程度普遍的な部分をもっている。こうした普遍性をさらに広い層に拡大することができるならば、デコレーションはさらに大きなムーブメントへと発展するであろう。そのためには、国内においても、海外においても、技術や材料の入手可能性、バリエーションの充実化、デコレーションに好意的な社会規範の形成が実現されることが必要不可欠だと考えられる。
(石川結衣)