JRA(日本中央競馬会)の年間売得金総額は1996年に4兆円を突破したのをピークに、13年連続で漸減傾向にある。その原因は不景気の波に帰されがちだが、果たして受動的かつ安直な発想で事態は改善するのだろうか。今こそ競馬に携わる全ての人に真剣に考えてほしい、今まで競馬には興味がなかった人にも知ってもらいたい、そうした想いが本稿の核にはある。現状を様々な観点から見つめ直すことが今の競馬界に最も求められていることだと考え、売得金減少の原因としての問題点を検証していくことを本稿の目的とした。
本稿では、競馬の知識が浅い人にも積極的に読んでもらえるよう、歴史から振り返り、競馬が戦前から盛んに行われてきた理由やJRA創設の経緯、競馬ブームから最盛期を経て現在に至るまでの変遷を示している。3章以降では、現状に対する原因を不景気以外の側面から見つめ、競馬評論家らの見解に加え私自身の考えとも一致した、売得金減少に影響を与えていると思われる要素を競馬界が抱える問題として指摘した。それは「複雑化・3連単馬券の導入効果・社台グループの独占化進行」である。複雑化とは競馬のしくみの難化を指し、本稿ではレース番組(競馬ではレースのことを番組と称する)の変更数を軸とした。3連単馬券については、少額購入者が多く資金回転が悪くなるという説に基づき売得金に及ぼす負の影響を鑑みた。三点目の社台グループ独占化では、同グループの地位が飛躍的に向上した結果、画一化が進み、面白みを減退させているのではないかという論を展開した。
これら三つの要素が売得金や入場人員に負の影響を与えているという仮説の下、統計的に分析を行った。JRAの公式成績からデータ集計し、相関係数の算出や重回帰分析を年次単位・日単位で試みた結果、複雑化と3連単の導入効果では仮説が棄却されたが、社台グループ独占化では仮説が支持された。3連単導入については、仮説とは逆の正の影響について有意な結果が得られ、むしろ全体的な売上げを底上げしていることが明らかとなった。また社台グループについては全ての分析において負の影響が認められたため、競馬界の画一化が売上げの面では悪い方向に進んでいることがわかった。この結果は多様化の必要性をよく示しており、馬産界の問題にまで視野を広げるきっかけが得られたと考えられる。
本稿では結果的に長年競馬を続けているファンに連なる問題を指摘したが、ファン層の高齢化が進む現状を踏まえると新規ファン獲得に目を向けることも同様に大切なことであり、ますます様々な観点に目を向ける態度と姿勢が必要である。