コミック市場における消費行動の変化 :雑誌/単行本の逆転現象から見える、変化とその要因

 近年のコミック産業において、産業構造が変化し、コミック誌がコミックスの売り上げを下回る、という状況に陥った。その原因は、

  1. コミック誌がマイナスの要因を抱えていること
  2. コミックスがプラスの要因を持っていること

の2点である。

 先行研究や資料では、①の要因として「少子化」や「インターネットの普及」が挙げられている。しかし、1990年代までコミック誌は少子化の進行中に成長してきた物であり、少子化を主な要因とするには疑問が残る。一方、一般家庭におけるインターネットの普及はコミック誌を含む雑誌の価値と必要性を低下させ、特に費用の支出を抑える要因となっている。このことから、コミック誌は一定以上にインターネットの影響を受けていると言える。

 また、コミック作品の長期化や読者嗜好の多様化は①と②双方の現象を引き起こしている。すなわち、コミック誌からコミックスへの読者の移動である。コミック誌で複雑なストーリーを展開している連載中の作品に、新規読者は途中からではついていけない。また興味をそそられない他の連載作品とまとめてコミック誌を買うのは、コスト面を考えても非効率的である。したがって、作品を買って読む媒体は、コミックスが主流になるのである。

 2.の要因として挙げられるのが「消費行動に対応した販売形態」と「メディアミックス」である。コミックスの廉価版や豪華版の積極的な販売は、コンビニを活用する若者の生活様式や資金に余裕のある読者のコレクター嗜好に沿い、着実に販売実績を上げている。また、有効なメディアミックスは新規読者の獲得や既存読者の維持に成功しており、近年では実写映画化など新たな分野でも成功を収めている。

 
 これらの結果、コミック誌は1995年以降下落を続ける一方、コミック誌は安定を保ち、必然的に2005年の逆転現象を迎えたのである。コミック誌がいまだにコミックス販売の母体役を果たしている以上、「コミック誌の挽回」「雑誌に代わる新たな基盤の確立」のいずれかの道が成功しなければ、コミック産業の将来は非常に危ういものとなるであろう。