今日、クチコミサイトが商品選択・購買決定において重要な役割を果たしていることは言わずもがなだろう。しかし、実際にオンラインのクチコミに関する本はマーケティングに関する本・ハウツー本が多く、社会心理学の切り口からクチコミの持つ影響力を実証的に検証している研究は多くない。
そこで、本研究では、クチコミサイトにおいて、少数派が影響力を発揮する条件として、「ヒューリスティック」や「一貫性の有無」などの社会心理学的な理論が適用できるのかを検討することを目的とする。この目的に沿って仮説を「少数派にオピニオンリーダーが存在し、一貫した意見であれば、そうでない場合より影響力を持つ。」と設定した。クチコミサイト上のオピニオンリーダー、すなわちクチコミ投稿数・クチコミが参考になった投票数が多い者は少数派でも、ヒューリスティックが働き影響力を持つと推測した。また、一貫した態度を持っている者、すなわち同じ商品・サービスにクチコミを何度か投稿し、同じ商品・サービスを何度も利用していることを示すコメントがつけられている者も、少数派影響力の特性より影響力を持つと予想した。独立変数はオピニオンリーダーの有無・一貫した態度を持つ者の有無、従属変数は興味の度合い、印象、購買意欲である。上記の仮説を検証するため、一橋大学の学生61名を対象に、心理学実験を実施した。実験参加者はオピニオンリーダーの有無・一貫した態度を持つ者の有無の2要因実験群(統制群、オピニオンリーダー群、一貫群、オピニオンリーダー・一貫群)に分かれ、それぞれの条件に合ったクチコミサイトを読み、質問に回答するよう求めた。実験から得られた有効データを用いて分散分析を行ったところ、少数派にオピニオンリーダーを含んだクチコミでも、興味の度合い、印象、購買意欲に影響を与えないことが明らかになった。すなわち、オピニオンリーダーは多数派の意見を覆すほどの影響力がないと言える。また、少数派に一貫した態度を持つ者を含んでいたクチコミの場合も、印象や購買意欲に影響を与えない。しかし、オピニオンリーダーであることを前提に一貫した態度を持った者を含むクチコミの場合、人気があると認識させ興味を持たせる力があることが検証された。さらに、オピニオンリーダーかつ一貫した態度の者を含むクチコミを読んだ群は、他の群と比べて興味の度合いでは最も影響力を持っていたが、印象や購買意欲では影響力を発揮しなかった。
よって、本研究により、クチコミサイト上でオピニオンリーダーであることを前提に、一貫した態度を持つ者は、購買意欲や直接的な評価までは影響を与えないが、「印象付け興味をもたらす」という認知の部分では少なからず影響を与え、多数の意見を覆す可能性は十分あると考えられる。また、クチコミサイト空間にても、一定の条件下で心理学理論「少数派影響力の特性としての一貫性」が働くことが明らかになった。この結果は社会心理学分野において学術的に、企業の広報戦略において社会的に意義のある結果だと言えよう。