スマートフォンの普及と購買プロセス: AISASとキャズム理論

私たちは日々、様々なメディアに触れながら生活している。インターネットの発達により、マスメディアから受動的に情報を受け取るだけでなく、能動的に求める情報を探したり、自ら発信したりすることすらも可能になった。メディアが複雑に発展することで、私たちの行動にも影響を及ぼしているのである。

AISAS理論は、そうしたインターネット時代の購買行動をパターン化したものである。何かを購入する前に情報を調べるSearch行為と、購入後に情報を自ら発信して共有しようとするShare行為に着目して、「どうやって」情報を伝え、購買行動へ導くかを示している。これに対し、普及学は、市場を新商品の採用時期によってセグメント分けし、その特性の違いに着目した。特性の違いから、それぞれ新製品に求めるものも異なる。つまり、「誰に(どんな属性の人に)」「どんな情報を」伝えるかを把握することで、イノベーションの普及を促進することができる。

これら2つの理論は、互いに補完し合うことで、「誰に」「どんな情報を」「どうやって」伝えれば、イノベーションを普及できるのか、ということを包括的に説明できるのではないかと考えた。そこで今まさに普及しつつあるスマートフォンを題材にして調査をし、「AISASのセグメントごとの再検証」と「キャズム理論の再検証」を試みた。

スマートフォンの所有者は「スマートフォンの購入時期」を、非所有者はどの程度スマートフォンを買おうと考えているかを示す「購買意欲」を、それぞれ独立変数として、重回帰分析を行った。その結果、AISASの再検証では、Search行為は購入時期や購買意欲とは有意な関係ではなかったが、Share行為は購入時期と正の関連が示された。購入前に情報を集める行為は一般的になっているようだが、購入後に自ら情報を発信する行為は早く購入した人の方が行っているという結果になった。キャズム理論の再検証においては、一部の仮説が支持され、購入者の場合、購入時期の早い人ほど「革新性」を重視し、「工夫なく使えるUI」を重視しない、という結果が得られた。

最後に、共有のために発信した情報の内容については、購入時期によって変化はほとんど見られなかった。むしろ、購入したのが早い人ほど料金や通信会社のサポート体制といった、アーリーマジョリティ以降の人々が重視する内容の情報を発信している場合もあり、アーリーアダプターとして情報を伝えていく役割を担っているともいえる。

調査対象の偏りなど、調査としての限界もあるが、スマートフォンの普及に関して、メディアの利用のされ方や、重視される情報などを包括的に調べることができたのには、意義があると考える。