近代以降、サッカーW杯やオリンピックなどは単なる国際的なスポーツ大会という枠を超え、大きなメディア・イベントとして認識されている。そのなかで、メディアはヒーローを見出し、大きく取り上げることで人々の注目を集めようとしている。しかし近年、スポーツヒーローを見出す時代から、メディアが作り出す時代になったと言われている。そこで、本論文ではメディアによるヒーロー・スポーツヒーロー表象の歴史、またメディアの中で購買者の能動性が高く、明確なメッセージを読者に与える雑誌を用いて、本田圭佑を対象に現在のスポーツヒーロー表象を分析することによって、メディアがどのようにスポーツヒーローを描いてきたか研究を行った。
第2章では、先行研究から、まずヒーローがメディアの発展によって変化し、現代のヒーローが限りなくセレブリティ(有名人)に近い存在になったことを述べている。次にスポーツヒーローも同様にメディアと密接に関係していること、そしてスポーツヒーローのモデル、最後に現在のスポーツヒーローに求められる要素を先行研究から導き出している。
第3章では、サッカーの本田圭佑を対象に、雑誌メディアによるスポーツヒーロー表象を分析し、今のスポーツヒーロー像を探るために二つの分析(フレーズ分析、時系列分析)を行った。フレーズ分析では「Number」「サッカーマガジン」「週刊文春」「週刊新潮」「AERA」における本田圭佑を形容するフレーズを中村俊輔と比較し、どのような要素が強調されているのを見出した。時系列分析では「Number」の本田圭佑に関する記事を時系列に追い、どのように描いてきたかを研究し、そこから2章で考察したスポーツヒーローに求められる要素に合致しているかを検証した。
第4章では各分析からの考察と、2つの分析から本田圭佑がどのような形でスポーツヒーローとして描かれているかを考察した。フレーズ分析から、本田圭佑は中村と比べて性格を表すフレーズ(強気・ビッグマウスなど)が多く取り上げられ、また形容するフレーズのバリーションが多いことがわかり、昨年一気に有名になった本田圭佑がどんな人物であるかをプレーだけでなく性格面もとりあげ、多面的に表象していると考察した。時系列分析からは、特に後半に「挫折・苦悩を意識改革で乗り越えた」「現状に満足せず、準備を怠らず高い目標に向かう」などのエピソードが繰り返し語られ、メディアが描く本田圭佑像を見出すことができた。そして2つの分析から、本田圭佑は(1)世界に誇れる“日本人”、(2)国民の期待を背負い、それにこたえるリーダーという2章で考察した要素に合致していること、また先行研究で述べられたスポーツヒーローモデルにも合致していて、現代のスポーツヒーローとして描かれていると結論づけた。
メディアによって描かれるスポーツヒーローには実績が必須条件であるが、それに加えて、それぞれの時代にあった人々が求める要素を満たすことが必要であるということが先行研究や分析から分かった。今後もその時代状況や人々の思いを反映した新たなヒーローがメディアによって描かれていくだろう。