本論文は、一般人が被害者となるウェブ炎上事件が起きる原因に、「Twitterというパブリックな場所でプライベートな発言をしてしまうという、場所と発言の性質のズレ」があるとし、この現象が起きる理由を探るものである。第1章ではこの問題意識について述べた。
第2章と第3章からなる前半部では、問題意識である「場所と発言の性質のズレ」が実際に起きていることを明らかにした。Twitterは、その設計上の特徴から「リアルタイム性」「オープン性」という独自性を持つ。この二軸から考えると、Twitterは「誰でも自由に参加できる『パブリック・ネッワーク』」と位置づけられる。また先行研究から、Twitterでは若者が現実社会と結び付いたプライベートな発言をする傾向にあることがわかった。第4章と第5章からなる後半部では、「場所と発言の性質のズレ」が起きる要因である「Twitterの『話しやすさ』」と「フォロー制度による聞き手の可視化」について詳述した。
「Twitterの『話しやすさ』」とは、「Twitterは情報を発信する際の心理的な負担感が特に低い」ということである。TwitterはCMC(Computer-Medicated Communication)の一つであることから、先行研究で実証された「CMCの非言語的手がかりの少なさは、ユーザーの自己呈示効力感を上昇させ『話しやすい』と感じさせる」というモデルはTwitterにも応用可能であると言える。このモデルに、他の先行研究で明らかとなった「Twitterは他サービスに比べ自己表現指向が強い」という知見を合わせると、TwitterはCMCの中でも特に「話しやすい」、すなわちTwitterは情報を発信する際の心理的な負担感が低いということが言える。これが「場所と発言の性質のズレ」を引き起こす一つ目の要因である。
「フォロー制度による聞き手の可視化」とは、ユーザーにとってフォローしている相手は「自分の発信した情報を受け取る存在」として認識されることである。そのため実際の知り合いを多くフォローしているユーザーは、Twitterを自分と知り合いだけで構成される場所だと勘違いし、可視化されていない聞き手の存在を忘れてしまう。このようなモデルを「場所と発言の性質のズレ」が起こる二つ目の要因として構築した。
このモデルを実証するため、2011年12月にTwitter上でツイート追跡調査とアンケート調査を行った。重回帰分析を行った結果、予想したモデルを支持する結果は得られなかったが、「実際の知り合いを多くフォローしているユーザーほどフォローしている人を意識しない/実際の知り合い以外を多くフォローしているユーザーほどフォローしている人を意識している」という結果が得られた。この理由として、「実際の知り合いを多くフォローしていると、実際の知り合いとは気心が知れているため自分への印象や相手がどう思うかを特に気にする必要がなく、そのためフォローしている人を意識しない/実際の知り合い以外を多くフォローしていると、実際の自分を知らない相手であるため自分への印象や相手がどう思うかを気にし、そのためフォローしている人を意識する」ということが考えられる。これらのことから、「ユーザーはフォローしている相手が自分の情報を受信する相手だと認識し、そのため、フォローしている人の範囲によってTwitter利用時の負担感が異なる」という可能性が示唆された。
以上のことから、「Twitterというパブリックな場所でプライベートな発言をしてしまうという、場所と発言の性質のズレ」が起きる要因は、Twitter利用時の心理的負担感が主であり、フォロー関係によってその負担感が変動すると推測される。