“編集型ファッション”時代の『sweet』: コピー分析と“カタログ化現象”の検証

 出版不況や雑誌の定期購読者自体の減少、インターネットの普及など、雑誌メディアを取り囲む環境が大きく変化し、各出版社の雑誌は苦戦を強いられている。しかしそうした状況の中、『sweet』(宝島社)は2007年時点で20万部程度だった発行部数が2010年には100万部を突破するという急成長を見せている。『sweet』が大ヒットした背景には、宝島社独自のマーケティング手法がある。しかし、ファッション誌の読者層は世代を追うごとに変化しており、そうした読者層の価値観の変化があるということは、選ばれる雑誌、“売れる”雑誌にも影響があると考えられる。

 本論文ではそうした読者層の価値観の変化に注目し、ファッション誌が多様化していく歴史的変遷と、それに伴う読者層の変遷を“新人類世代”・“ジュニア世代”を軸にまとめた。そして、“編集型ファッション”世代という、“ジュニア世代”以降の世代の女性の特徴についてまとめた。“編集型ファッション”世代の女性たちは、従来の女性のようにファッション誌をマニュアル本のように読むというよりも、自らの視点で組み合わせ、スタイルをミックスさせることを好むということがわかった。そうした彼女たちの特徴から、従来の雑誌に多く見られるような、読者に着こなしを提示するような編集方法は望ましいものではないと考察することが出来る。

 以上を踏まえ、本論文では『sweet』の方が他誌と比べ、“編集型ファッション”時代の女性に好まれるような誌面作りをしているという仮説を設定した。具体的には、コピー表現の差異の検証およびモデル数・商品数から見た“カタログ化現象”の検証を行った。

 その結果、『sweet』は他誌と比べて、「センス」の発揮を促すコピーよりも「モノ」の差異性を強調するようなコピーが多いということ、またコピーそのものの量が圧倒的に少ないということ、そしてモデルの写真掲載数も少ないということがわかった。従来の論文では、日本のファッション誌は全体にコピーの量が多く中でも「モノ」の差異性を強調するようなコピーよりも「センス」の発揮を促すコピーが多いということ、またモデル・商品の写真掲載数もカタログのように多量に掲載されている、と述べられてきた。こうした従来の論文の見解は日本のファッション誌をひとまとめにしたものであったが、本論文の調査により『sweet』は従来の雑誌とは異なる作られ方をした雑誌であり、“編集型ファッション”世代の女性たちの傾向と合致した誌面作りがなされているということがわかった。