電子書籍の可能性と紙書籍の存在意義: 電子書籍・紙書籍のメディア論的比較

 本論文は電子書籍・紙書籍をテーマに、(1)客観的視点に基づく比較によって両者の特性を明らかにすること、(2)紙書籍の存在意義を非感覚論的に説明すること、(3)それぞれの特性を踏まえた上で両者の理想的な共存関係を模索することを目的として執筆されている。

 第1章・第2章では後の議論の前提となる知識や認識について共有するため、第1章で書物・読者・読書の歴史について概観し、第2章では電子書籍の歴史と今日までの動向についてまとめた。

 第3章「紙書籍と電子書籍の比較」では、独自の比較軸を設けて各々のメディア的特徴を検討し、電子書籍は(1)柔軟なユーザーインターフェースを持つこと、(2)リッチコンテンツという新たな表現を取り込めること、(3)ソーシャルリーディングなどの新しい本の読み方や楽しみ方が可能になることの3点に利点のあるデバイスであり、一方紙書籍は(1)読書行為を表出化させ読書習慣を顕在化させる効果があること、(2)読書への集中を促進する効果があることの2点において優位性のあるデバイスであることが示唆された。

 第4章では、第3章で示唆された電子書籍の特徴について具体例を挙げながら検討し、メモやラインマーク、貸し借り、立ち読みなど、紙書籍でできる大方のことは電子書籍でも可能となっていること、さらにはリッチコンテンツやソーシャルリーディングなど、紙書籍ではできなかったことも電子書籍では可能になることを示し、読書デバイスとしての電子書籍の秘める大きな可能性について言及した。

 第5章では、紙書籍の特徴について先行研究をもとに検討し、読書行為を表出化させ読書習慣を顕在化させる紙書籍は、読者自身に対しては「読書習慣の獲得過程」において、読者の周囲の人々には「読書の文化的再生産」と「読書欲喚起」という形で影響を持つこと、また純粋に読書に特化した紙書籍は電子書籍よりも読書への集中を促進しやすいことが示唆された。

 第6章では以上の結果を踏まえて、「読書をするためのメディア」としては電子書籍が、「読書を促すメディア」としては紙書籍が適しているとし、この読書を促す効果を持っている点を紙書籍の存在意義として指摘した。また、この両者の特徴の違いを考慮すれば、「電子か紙か」という二者択一ではなく、読者を読書の世界へと誘う役割を紙書籍が、読者により良い読書環境を提供する役割を電子書籍が担うというすみわけに基づいた共存関係を構築することが理想的であることを示した。

 また、「おわりに」では「本の未来の超希望的観測」と題して電子書籍と紙書籍の理想的な共存関係について考察し、電子書籍の登場による一種の相乗効果として始まりつつある紙書籍をめぐる新たな取り組みを紹介した。