東日本大震災の流言・デマの内容と 当事者による訂正情報発信の有無に関する考察

 2011年3月11日に発生した東日本大震災を、流言・デマという観点から見るとき、しばしばソーシャルメディアがデマを広げたという言説が広がった。実際、いくつかの流言・デマを初めて知る経路として、インターネットが、従来のマスメディアやメール、直接聞くといった経路と並び、一定の重要性をもつことが、震災後の研究により明らかになっている。一方で、流言・デマ対して、ソーシャルメディアにより、デマの打消しが可視化され、リアルタイムでの訂正情報の発信が可能になった。その中でも、デマ訂正の根拠となる当事者による訂正情報の発信は重要であると考えた。なぜなら、本震災のデマでは、根拠の無いデマが多く見られたため、明確な情報源がみられないというデマ訂正メッセージがインターネット上で多く見られた。当事者が何らかの形で否定していれば、デマを打消す上で、一定の情報源となり、デマ打消しの有効性は高まると考える。

 そこで、震災後に刊行された流言・デマに関する書籍、およびデマについてまとめているインターネット上のサイトから集めた流言・デマを対象に、その内容からデマを分類し、どのようなデマに対して当事者による訂正情報発信が行われているかを考察した。
政治団体、政治家や国の政策に関するデマについては、「被災地の救援活動を妨げるような行動や発言をした」という内容のデマは当事者である議員により訂正情報が発信されていたが、それ以外のデマついては訂正情報発信は見られない。また、外国からの救援や外国人犯罪に関するデマについては、そのほとんどが当事者である国や団体などによる訂正は行われていない。被災地に関する憶測から生じたデマでは、「食料や水が絶たれ、人々が餓死している」というデマに対して、現地を確認した県議会議員、市議会議員によるツイッターなどからの訂正情報発信が行われた。放射能に関するデマについては、放射線医学総合研究所などの専門機関が訂正情報発信を行ったものがみられた。

 また、悪意からSOS情報を発信し、情報がツイッター上で広まった後に、それがデマであることを当人が告白したケースや、本人がデマだと否定したが、その否定自体がウソで、デマだとされた情報が真実であったという証拠が見つかったケースは、今後の災害時のデマ研究において注意すべき問題を提起している。また、インターネット上でネタとして扱われているものが、デマだと認識されかねないことも、インターネットが普及した環境から生じたデマに関する新たな問題である。