最近では、テレビのワイドショーのみならずバラエティー番組、クイズ番組などにも政治家が頻繁にゲストとして登場するようになり、一般国民も政治に関心を持つようになってきている。特に「小泉劇場」という言葉を作り出した小泉純一郎が登場してから、国民の政治への関心はずいぶん高まり、また、政治家の話し方、振る舞い、パフォーマンスというものも注目を浴びるようになってきた。そこで、本論文では、このような状況下で「政治家のトップである首相の話し方は変わってきているのか」という問いに答えるために、首相の言語分析を行なった。
まず第1章「政治と言葉の関係」では、言葉による政治コミュニケーションが、大統領が国家を統治する主要な手段の1つとして重要な役割を果たしているアメリカを実例に、政治と言葉の関係について論じた。そして、日本における政治と言葉の関係の現状を分析し、日本においても言葉による政治コミュニケーションが重要な役割を担うことができる環境になったということを示し、その上で、「首相の話し方は言葉による政治コミュニケーションを意識した話し方になってきているのか」という問いに答えることを本論文の目的とした。
第2章「先行研究」では、日本の首相の言語分析に関する先行研究を整理し、先行研究の結果や問題点をふまえ、本論文を先行研究の発展研究として位置づけ、本論文における分析の目的や分析方法、分析対象を決定した。
第3章「所信表明演説の言語分析」と第4章「国会答弁の言語分析」では、首相の所信表明演説と国会演説を分析し、首相の話し方の変遷について考察した。この結果、第3章の所信表明演説の分析においては「首相の話し方が言葉による政治コミュニケーションを意識したものになってきている」という結論が出たが、所信表明演説よりも自然かつ瞬間的な発言である国会答弁での分析からは、そのような結論を出すことができなかった。しかし、所信表明演説と国会答弁の言語分析を通じて、小泉だけが言葉のコミュニケーションによる国民への働きかけを前面に押し出した言葉の使い方をしている、ということを示すことができた。
第5章では、所信表明演説と国会演説の分析で明らかになった小泉の言葉の使い方の特異性に注目し、実際に小泉はどのような言葉を用いて政治をしているのか、についてその特徴を分析した。
そして、第6章では、本論文のまとめとして日本の言葉政治の未来について考察し、小泉による言葉政治の成功によって言葉政治の重要性はさらに増していき、アメリカと同じように、日本においても言葉による国民への働きかけが成功しなければ政権を長期間に維持することができない状況になっていくだろうと結論付けた。