本論文は、野球マンガの内容分析と、競技野球の社会的受容の歴史的推移の間にある関係性を読み取ることを目的とした研究である。
第1章では、研究の前置きとして、研究動機や本論文の研究の意義について述べる。自分がマンガを好きだから、研究対象としてマンガを選択し、マンガ研究には、数値的根拠を基にした客観的視点からの研究が少ないため、内容分析による研究をする動機となった。
第2章では、内容分析研究と、マンガ研究における先行研究を紹介する。マンガ研究には大別して二つのものがあり、ひとつは主観に基づいてマンガの描写内容について検証する『マンガ表現論』的研究、もう一つは、マンガを商品と捉え、経済学的視点からマンガ市場を読み解く研究である。
第3章では、先行研究の『マンガ産業論』を引用しながら、戦後のマンガ史について産業的視点から概観する。第4章では、同様に日本における競技野球の歴史を概観した後、プロ野球のテレビ視聴率を基に、競技野球の社会的受容の推移について述べる。
第5章から、本論文独自の研究内容に入っていく。第5章で、今回の研究に用いる内容分析の方法や形式について述べる。具体的には、投手と打者の技術に関する描写について、その誇張の度合いに応じてカテゴライズし、数え上げを行う。第6章では、実際の内容分析結果を、第7章では、6章を踏まえた考察を行う。
第8章では、5章以降の内容分析と、第4章の競技野球の社会的受容の推移を合わせて考察し、その相互関係について検証する。その結果、競技野球の社会的認識は、エンタテインメントから情報へと変容しており、かつてはエンタテインメント性の補完として野球マンガがあり、その一要素が魔球であったこと、現在では野球マンガは、試合テンポの悪さや長い試合時間を克服した仮想的野球を体験させる存在であるために現実の競技野球に忠実な野球マンガが描かれる傾向にあるのではないかという結論に至った。